青嵐緑風、白花繚乱
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      5



 現場へ駆けつけたのは、警視庁捜査一課強行係の佐伯刑事が率いて来た、ここいらの所轄の交通警邏課や少年課、生活安全課の皆様であり。微妙に命令系統やら管轄やらが違うはずだが、

 「何でまた、こういう物騒なことを君らだけで当たるかな。」

 10人とちょこっとという相手の陣容。しかもしかも、若造とはいえ場慣れしてそうな男性陣もいたのだ。限られた顔触れだけが知る“昔”はともあれ、今はか弱い女子高生が、こんな危ないことをしてどうすると。顔見知りだからこその叱責を並べ掛かった佐伯さんだったのも無理はなく。だがだが、

 「あらあら、今回は勘兵衛様へちゃんと連絡しましたわよ?」

 左右に振り分けた金髪をそのままキュウと引き絞り、ベリーショートを思わすような、うなじまでの編み込みにされた髪形が、それはきれいな彼女の頭の形を知らしめる。そんな横顔をご披露くださるようにそっぽを向いたまま、しらっと応じた草野さんチのお嬢様。え?と出端を挫かれた征樹殿だったのへ、

 「だから、佐伯さんが此処へも来れたんですし。」
 「…え?」

 いや、俺は勘兵衛様の携帯を見て…いやいや、メール画面を開いたまんまにしておいでだったものだから。相変わらず無頓着なお人だなと思いつつ、そこに出ていた文面へギョッとしてだな…と。自分のとった行動を語った佐伯刑事殿が、その途中でハッとし、

 「……………………あ。」
 「そういうことvv」

 判った?とにっこし微笑って、やっとこちらを向いてくださった白百合さんで。……いやあの、寡黙な久蔵殿の意を酌むのが得意な七郎次おっ母様と。何でもかんでも黙って飲み込みの、はたまたその背中に負いのしてしまう勘兵衛に二世に渡って仕えて来た征樹さんなだけに(いや、その言い方はちょっと語弊が…)、あなたがたが察しのいい人同士だってのは重々承知しておりますが。そこまで省略されると、傍の者には何が何だかよく判らない。

 「???」
 「わたしにも さっぱりなんですが。」

 言わずもがな キョトンとしている久蔵や平八へ、

 「勘兵衛様の搦め手に、見事 踊らされたようだってことですよ。」

 そんなことじゃないかと既に承知だった七郎次と違い、今の今そうと判ったらしき佐伯さんがしょっぱそうなお顔になった。
 「?????」
 それだけじゃあまだ判らないと、ますます眉根を寄せた久蔵だったのへは、

 「ですから。
  アタシが今日の一件を報告しとこうと、
  お昼休みに勘兵衛様へとメールしたのは見てましたよね。」

 「………。(頷、頷)」




      ◇◇◇



 現にそうだったように、相手がせいぜいやんちゃな女子高生や、そんな彼女らがカレ氏扱いしている中途半端なチンピラどまりなら、自分らだけで何とか出来る自信はあった。(こらー) しかもしかも、解決した今だから言うのじゃないが、そうじゃないのかなぁという予測も既に立っていた。

 「だって、江威子さんが何か隠しているなという素振りをしていたもんで。」

 恐ろしがってか、若しくはまったく相手にしないまま、七郎次がQ街まで来ないことのないように。ただ単なるお使い以上、自分が誘導してでも連れてゆくという役回り、頑張って遂行した彼女だったのがどうしてなのか。そうまでした江威子さんの様子にこそ“矛盾”があったと、そこへまで とうに気づいていたこちらの3人娘であり。

 「あの……。」

 そこまで露見しているのなら尚更に、自分もお縄を受けた彼女らと同類なんじゃあと。寂れた場末の地下街にて、しばし埃が舞い上がった捕り物の最中からこっち、乾いた照明に照らされた白い頬を、拭い去れない不安からますます青白くしていたお嬢様。事態収拾したのはいいが、次は…気弱だったがゆえの罰を受けねばならぬと、細い肩をすっかり落としていた江威子さんへ、白百合さんがにこりと笑い掛け、

 「だって、肝心な△△さんへ、
  確認の電話なりメールなり、
  掛けたり打ったりして色々と確かめたかどうかってくだりは、
  一切 話に出て来なかったでしょう、江威子さん。」

 彼女の名前でのメールだったからこそわざわざQ街まで出向いたほどに、大事なお友達なのなら。どうして彼女の携帯が、そんな得体の知れない子たちの手にあったのかと、何かしら不安とか不審とか感じなかったのかな? 

 「あ……。」

 「ただ、怪しい写真をばらまかれるとだけ脅されたんじゃない。
  △△さんも彼女らの手中にいるんだと、
  言うこと利かないとこの携帯を取り上げたどころじゃない、
  何するか判らないよとまで、言われたんでしょう?」

 しかも…その△△さんは、今週ずっと学校に出て来てないものね。やはり本当なんだと思ってしまって、不安に押し潰されそうだったんだよね。

 「でもね、実をいや。」

 問題の携帯はね、こっちのお嬢さんのバイト先で機種変更しただけの話。大事な写真やメールのデータはフラッシュメモリだかへ移してあるから、古いのは処分してと言われてのそれで。そんなことしちゃいけないのに、

 「お店の人の目がなかった時間帯だったからって、
  こっそりと掠め取ったんだよね、この子が。」

 そちらさんたちはさすがに捕縄まで掛けられちゃあなかったものの。婦警さんたちに取り押さえられていた少女らの中、髪が一番盛られていたリーダーさんがウッと息を引いた後、少し震えている口許を尖らせて見せる。

 「そ、そんなの証拠もないのに…。」
 「証拠と言えるかどうか。防犯カメラがちゃんと見てましたわよ?」

 チッチッチッと指先振りつつ、平八が口添えをし。レジのお金なり、商品の数なりに不審がなかったんでチェックされなかっただけの話で、

 「時間帯を絞って検索かけたら、
  怪しい動きで猫ババしてるところが映ってました。」

 平八がお気に入りの籐のトートバッグから取り出した、スマートフォンの兄貴分、少し分厚い下敷きみたいな◇パッドのモニターに映し出されているのは、まさにその瞬間の、某携帯ショップの映像であるらしく。

 「急に買い替えをなさったのはね、
  大急ぎで海外へお出掛けになったからなんだな。
  そちらへ永住してなさる、△△さんの親戚の方が、
  容態が悪くなったとかで、それで多数呼ばれたらしくて。」

 だから、お家へのお電話掛けても連絡がつけられなかったんだよと、江威子さんが一番案じていたことを伝えて差し上げたうえで、

 「そういう事情まで、店にいたことで会話から引き出したこの子らの、
  海外だってよ、いけすかないお嬢様学校だよねぇ…なんていうお喋りへ、
  今度はそっちのお兄さんが聞き耳立てたんでしょう?」

 「………う。」

 何かしら金になる話は無いかと、日頃からも抜け目がなかったそうじゃない。そんな中、彼女らの“女学園云々”って会話を漏れ聞いて、しかもしかも、手元に持ってた携帯には久蔵殿の隠し撮りやそこに居合わせたアタシの姿も収まっていて。

 「そもそもは、女学園の誰でもよかった。
  適当に揺すぶれば小遣い銭には多すぎる桁のお金が、
  毟り取れるかもと思ったところへ、
  警察関係者と一緒にいるの、
  たびたび見かけるアタシの写真が目に入ったもんだから。」

 どうせ恐喝するならこの子がいいと、そうと思ったのもあなたたちなんでしょう? 護衛にだろう私服刑事と一緒にいるところを見かけるなんて、本来なら近寄るまいと構えるところ。でも、ちょっと待てよと余計な浅知恵が沸き出した。警察関係者が護衛についてるような格の子が、自分たちの言いなりになったら? 実入りがいいってだけじゃなく、警察官相手に、知り合いのお嬢様がどうなってもいいのかって脅す恰好で、大きな顔が出来んじゃないかって思った。何か弱みを掴んどいて、逆らえぬよう枷をはめ、鼻面引きずり回してやってもよし、困り事をもみ消してもらってもよしって風にね。

 「う………。」

 言葉に詰まってふいっと視線を逸らしたところを見ると、やはりそんなところであったらしく。

 「馬鹿ですよね。
  本当に警察の人が護衛についてるようなお嬢様ならば、
  今回みたいにわざわざ誘い出されるような突飛な例は
  まずはないってのがどうして判らないもんだか。」

 まず。政治家や外交官クラスの要人本人以外の関係者には、至近に張り付く護衛は滅多につきません。暗殺だの誘拐だのというレベルの脅威が降りかかる恐れが、具体的にあると見なされた人じゃないと、要警護っていうマーキングがされないからで。

 「そんな警護を受けてるお嬢様がいたらいたで、
  こんな用件で呼び出されたからって、
  護衛官さんを振り切って抜け出すなんて、それこそ至難の技ですよ。」

 きっと追跡されるでしょうし、その前に屋敷から出してもらえませんて…と。何でだか、妙な解説をした平八の傍らから、

 「手ごたえ無さ過ぎだ、お前ら。」

 ふんと鼻息荒く憤慨したのが、ばいお・はざーどのヒロインさんとそっくりと評されていた、三木さんチの久蔵お嬢様。そういえば、今回の得物はまた、随分とやわなものを選んだ彼女であり。

 「指し棒、もう一本要りますかって訊いたんですがね。」

 それか、鋼鉄製のにしときましょうかと、と。装備補填担当工部匠のひなげしさんがおっかないことをさらりと付け足したが、

 「何となれば“アレ”があるから要らぬと。」
 「ああ、アレねぇ……。」

 恐らくきっと“超振動”のことだろなと。そこは七郎次にも通じた模様。さすがに、勘兵衛や征樹のいる前では、事情が通じるからこそ言えないことでもあったからで。……兵庫さんは知っているのだろうか。あなたが健康管理をしている紅ばら様が、あの恐ろしい技を使える身になっていることを。

 “知ってたら今も駆けつけてると思うけど…。”

 だよねぇ…。

 「…にしても。」

 だったらということか、ずらずらと数珠つなぎにされた男女が間近い地上への出口へ連行されてゆくのを見送っていた平八が、肘まで上げての背伸びの後、延ばした腕を頭の後ろへ回しつつ、ふと口にしたのが、

 「シチさんがわざわざ連絡入れたのに。
  勘兵衛さんたら何してるんでしょうかね。」

 日頃の無鉄砲をいつもいつも叱られているお嬢さんたちなので、というのも理由じゃあったが、

 『女子高生がやっかみからやらかした恐喝騒ぎにしては、
  ちょっと流れが不自然だなと思って。』

 くどいようだが、どうして警察関係者と縁のありそな七郎次を名指ししたのかが気になった。結果として、護衛についていたに違いないという幼稚な把握に過ぎなかったその上で、そんな護衛官をも、自分ら程度の幼稚な恐喝で言いなりにしようと構えていたらしかったが。もしも何かしら含むところのある大物が咬んでいたならば、

 「だって、あの故買屋組織の、とか。」
 「ソフト会社のマスターキーを盗んだ、こそ泥のお仲間とか?」
 「それか虹雅堂のバックにいた盗品売買ネットワークの。」
 「そうそう、あの恐持てな人たちとかだったら。」
 「そこまでの大物なら、
  勘兵衛さんへ恩を売りこそすれ、逆に出て来ないでしょうよ。」
 「そうでしょうか。」

 駅ビルまるごとっていう盗品倉庫を明るみにしたこと、恨まれてたかもしれないし。それを勘兵衛様のお仕込みだと思われていたらば、やっぱりお知らせしておかないとと思って。あー、そんなのが本心だったんだシチさんたら。えっとぉ。////// おかしいと思った。そうそう、何でいきなり殊勝なことをってね。………などなどと、結構物騒な名前をぽんぽんと並べたお嬢さんたちだったので。まだまだそういうところへの知識はないだろ女の子たちはともかく、

 『…おいおい嘘だろ。』
 『なんだ、どうした ●●。』
 『だってよ、そういやあの女学園かかわりで、
  隣町にあった組の事務所が随分とガサ入れされてたのおぼえてねぇか?』
 『あったあった。』
 『一体お嬢様相手にどんな不祥事しやがったって、
  笑い話にしてたウチの兄貴とか 組の人からボコられてたから、
  結構シンコクな事態だったらしくてよ。』

 そんな格の連中をきりきり舞いさせたってことか? そういや、自分が何とか弁天て暴れ者だってばれたのかと思った、なんて、言ってなかったかあの金髪の女、いやお嬢様がよ。ぼしぼしと私語を交わしていた連中へ、そんな会話なぞ聞こえぬまま、くすすと微笑った七郎次さんだったのだが。それは愛らしくも清楚な笑みだったにもかかわらず、彼らには…それこそ“鬼百合”の威圧たっぷりな高笑いに見えたに違いない。
(大笑)




       ◇◇



 そんな修羅場へも顔を出さなんだ勘兵衛だったこと、平八や久蔵がやいのやいのと言ってたのを、ここ警視庁の刑事部屋でも復活させかかったものの、

 「好きなだけ罵ればいいさね。」

 捜査課の様々な部署が一緒くたになっている広々したフロアと廊下とをつなぐドアの1つから、のそりとお顔を出したのが、その島田警部補本人で。中で交わされていた会話も聞こえていたか、いやいや このおタヌキ様ならば、わざわざ聞かなくとも察しくらいはついてもいよう。そしてそして、

 「勘兵衛様。//////////」
 「すまなんだな、現場へ顔を出せなんだ。」

 いいえいいえ、構いません。だって、どんなに瑣末なものであれ、これ以上 余計な恨みを背負っていただく訳には行きませんもの、と。含羞みと切望とを綯いまぜにしたようなお顔をする白百合さんだったのへ、街にもあふれる新緑もかくやという、それは目映いものでも見るかのように、目許細めた警部補殿だった。




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  *△△さんは 美威子(びいこ)さんだったりして?(苦笑)
   それはともかく、
   元ネタが“ゲームブック仕様”だったせいか、
   あちこち何だか わざとらしい仕立てですいません。

  *こぉんなおっかないお嬢さんたちもいる女学園だと、
   思い知ったらしいですよ、チンピラのお兄さんたち。
   夜叉弁天伝説が、今始まった訳ですね。
(笑)

   「…余計なことを蒸し返さない。/////////」
   「………………?(始まってないのか?)」
   「いやいや、そういう意味じゃなく。」
   


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